冬の風物詩・・・

母は定年になるまでの30年間、総合病院の職員だった。
のっけから外科病棟に配属され、不思議と異動することもなく
毎日「切った!貼った!」の現場を目の当たりにし
重症・重篤の患者さんたちも相当多く見続けてきたらしい。



そして、定年になって10年近くも経つと
周りも段々生活環境が変わってきて
おひとり様で過ごす仲間たちが増えてきつつあるようだ。



たまに。。。
私が用事や仕事を済ませて帰宅すると、ぞろり〜と母の友人である
元:職場の同僚の方々が 「こんにちは〜。遊びに来たわよぅ」と
出迎えてくれる。



でも、現役を引退した…とはいっても
みんなそれなりに医療のプロだった人たちだし
人間の生き死にを目の当たりにし
いのちを預かってきた人たちなだけに
流石に肝っ玉が座っているなーと感じることが多い。



生活していく中において
医療の知識があるというのは本当に素晴らしいことだし
何より 「手に職がある」というのは物凄いことだなぁ〜と
資格だけはあれこれ持っているけれど、何ひとつ役に立っていない私は
正直、羨ましく思ってしまう。



いくら大手の有名企業に勤めていても
会社都合でリストラされてしまえば、潰しがきかぬフツーのヒトだもの…。
積み上げたキャリアも、仕事を辞めれば全く価値がなくなるなぁ〜と
40半ばにしてため息をつく日々である。



さて。
母の元:同僚のひとりに、腕利きのお産婆さんがいる。
「とうとう私も後期高齢者になっちゃったわよぅ〜」と笑っているが
現役を引退してからは、もっぱら自宅近くに畑を借りて
野菜作りに精を出しているようだ。



この人の何が凄いって、まずは徹底的に土壌作りから始めたそうで
今ではプロの農家の人たちも、あっ!と驚くほどの作物を立派に育て上げ
見事な豊作ぶりを発揮しているのだ。



「あのね、大根が収穫できる時期になったんだけど、遊びがてら取りに来ない?」
と、先日、とってもありがたいお電話をいただいた。



「ひとりで生活していると、料理をしても誰〜も食べてくれないし
畑に植えたままにしておくと、どんどん育っちゃってね。しまいには腐るからサ」
と、ちょっぴり寂しい現実もエッセンスとして混じっている。



そして、「せっかく育てた野菜が誰にも食されず
畑のコヤシになってしまうことが一番悲しいから…」とも言う。
たしかに、その通りなのだろう。



家から車で30分程走れば、その方の家につく。
市内をちょこっとだけ外れただけなのに、空の青さと空気が違うな〜と思った。



お天気さえよければ、畑仕事は気持ちがいい。
母も私も土いじりは好きな方なので、喜んで引き抜きをさせてもらう。
「畝になっているこの列を、全部抜いてちょうだい」と言われ
よいしょ、よいしょ・・・と抜きまくり、あっという間にひと山になった。



「あのね。それ、全部あげるから持って行きな〜」と言われ
うわ〜〜〜、こんなに!と、こっちがびっくり!だ。
他にも沢山の野菜をいただき、車のトランクにどっさり積んで帰ってきた。



すぐに少しずつ小分けして、父の病院に行きがてら
母の友人、私の友人に・・・と、ルートを決めておすそ分けをして回る。
「あらぁ、もうこんな季節になったのねぇ。
最近はひとりじゃ大根も重たくて買えないから、嬉しいわ」と
ニコニコ笑いながらお礼を言う母の友人の言葉に、ハッとなった。



そうだよね、去年も一昨年もその前も「産地直送」でお届けしたんだね、と。



先端が二股に割れてしまったり、途中で折れてしまった大根は
それこそ「畑のコヤシにするから…」と投げられてしまうことがあるけれど
私としては、それがとっても勿体なくてしょうがない。
「下さいな」と言って、大切にいただいてくる。



一度に食せない分も合わせて、ピーラーで薄く切って酢漬けにしたり
包丁で薄切りにしてすだれの上に並べ、干し大根を作ってみたり…。



日当たりのよいリビングが、今は干し大根作りの現場になっている。
干したてはまだそれなりに大きさもあるけれど
日々、水分が蒸発していけば、しょわしょわ…と縮んで
そこそこの量になってしまう。



太いものは半分に、比較的細いものは丸ごとスライスだ。



十分に乾いたら、それを今度はビニール袋に小分けして入れ
冷凍室で冷凍保存。
これが冬場の貴重な食料となるのだ。



今年も玄関を開けて、ふわ〜〜〜っと大根のニオイが漂うのを感じ
「年末が近いなぁ」と思ってしまったが
去年と変わらぬ生活が今、ここにあることに
穏やかな感謝の思いを感じてしまった。



今は日常生活に制約があるので、なかなか自由な時間が取れないけれど
少し生活が落ち着いたら、お礼も兼ねて
母の友人たちを車に乗せてスーパー銭湯にでも行こうか
それとも、お家に招いて熱々の韓国料理でも作ろうか…と
あれこれ思っている今日この頃である。