愛しの携帯ちゃん

毎日毎日毎日毎日・・・・・・。
物凄い速さで一日が過ぎていく。
(なんだか最近、こんなことばっかり言ってるよねー)



全く「師走」なんてよく言ったもんだ。



久しぶりに夜のラッシュに巻き込まれ、荷物を持って移動していたので
自分も大変だったけど、周囲の乗客たちもそれなりに迷惑だったに違いない。
揺れても「人」ならある程度柔軟性があるけれど
荷物はただ邪魔なだけだからね。



電車の扉が開くと、まるで親の敵のように我先に…と車両から人が流れ出ていく。
そしてまた、どっと人が乗り込んでくる。
誰彼構わず、容赦なくぐいぐいと押して押されて扉が閉まる。



全く、あ〜ぁな光景だ。



途中の乗り換え駅で、どっと人が降りていった。
終点まで行く気楽さは、やっぱり無責任なものだ。
目の前の座席が空いたので、持っていた荷物を床に置き
「よっこらしょ」なんて座ってみる。



目を上げると、立っている人と人の間から
斜め向かいの座席で眠りこけているひとりの青年の姿が見えた。



片手を上着のポケットに突っ込み
足を広げ、パーマをかけた長い髪の毛を前に垂らしながら
思いっきり夢の世界を漂っているらしい。
余程、オツカレなのだろう。



私もOLをやっていた頃は、電車に揺られ都心まで通っていたけれど
毎朝毎晩、こんな生活を繰り返していたっけな…と懐かしい思いに浸りつつ
いつの間にか電車の心地よい揺れに、ちょこっとだけまどろんでしまった。



と、「ゴトっ」という小さい音がして、眠りこけている青年の足元に
なにやら白いかたまりが落ちた。



あ、携帯電話だ。



ひざの上に置いた、もう片方の手で握っていたものが
眠ってしまったために、落ちてしまったのかしら。
でも、周囲の誰もが気に留めない。。。



次の瞬間、大きく電車が揺れて駅に到着し
沢山の人が乗り込んできた。



時期柄、忘年会帰りなのだろうか。
上機嫌になったサラリーマンの集団が、ワヤワヤと大声で喋りながら
近くの扉から入ってきて、そのうちのひとりが何も気づかずに
その携帯をスコーン!と蹴り飛ばしてしまった。



床の上で見事に一回転し、不思議と誰の足にも当たらず
そのまま車両の端っこまで飛んでいってしまったが
多くの乗客たちの姿で、その携帯の行方がわからなくなってしまった。



あららららら・・・。



そして発車のメロディが鳴り止むと同時に
ハッ!と居眠り青年が目を覚まし
ココドコぉ〜!?」とばかりに、乗り込んだ人たちを掻き分けて
周囲に嫌な顔をされながら、大慌てで降りて行った。



今の世の中、お財布よりも大事になってきた携帯電話。
失くしたら本人にとっては大問題だろう。
何しろ、個人情報がいっぱい入っている。



程なく終点駅のホームに電車は滑り込み、乗客たちも降りる準備をしていたが
先ほど、携帯電話が飛んでいった方向を見やれば
すっかり出来上がったおっちゃんが
「あ〜ん?」とあの携帯電話らしきものを拾い上げ
そのまま座席の上の棚の中にポイっと放り投げてしまった。



あの居眠り青年が、この「落し物」と無事に再会出来たかどうかは知らない。
でも、きっと、電車の乗り過ごしより
携帯がないことに気づいた時の方が、ヒヤッとしたに違いない。



さて。
帰宅して、玄関のドアを閉めた途端、珍しく家の電話が鳴った。
「はい」と出たら、夫だった。



「あぁ、帰ってたんだ。何度携帯呼んでも出ないからサ」と。
あぁ、ごめんごめん、電車に乗っていたから出られなかったのよ、と
言いつつ、夫の用件を聞けば
「仕事の帰りに散髪に行ってたから、帰りが遅くなっちゃった」とのこと。



「はいはい、貰ったメール、確認しておきます〜」と鞄を置いて
サテ携帯…と思ったら、いつも入れてあるところに入っていない!
え?えぇ〜〜〜〜!? と、今度は私がヒヤッとする番だ。
鞄の中身を全部出して、コートのポケットに手を入れて・・・。
ない!ない!な〜〜〜い!!!!!



仕方なしに家の電話から、自分の携帯を呼んでみる。
・・・ん?
脱衣所のあたりからなにやら振動音が。。。



あぁ、そうだった。
出かける前に靴下を履き替えなきゃ、と思って
携帯メールを読みながら、洗面台の上にちょこっと置いてしまったんだっけ。
そのまま気づかずに出かけちゃったんだ。



画面を見たら、不在着信とメールが何件も入っていた。
うわ、たった数時間のうちになんだコレ。。。



ある意味、携帯電話の普及で、生活はとっても便利で快適になったけれど
反面、面倒な事態になったもんだ…とつくづく思ってしまった。