リサイクル

バルコニーで水かけをしていた母が、大笑いしながら戻ってきた。
「な〜んか、ズボンの糸が全部ほどけちゃったみたいー」


見れば、日よけの麦わら帽子に長袖ブラウスを羽織り
首にはタオル、そして前後に物凄〜いスリットが入った布を腰に巻いている。


・・・よくよく見ると
足の内側に沿ってぐるりと縫ってあったところが、全部ほどけてしまったらしく
風が吹く度に元右足・元左足だったズボンの布がパタパタとたなびいている。


わはははははは・・・!
お腹がよじれるほど、笑ってしまった。


聞けば、以前買っておいたウエストがゴムの「のびのびズボン」が
たんすの奥から出てきたらしく
「あらぁ、ガーデニング用にちょうどいいわ〜!」と
喜び勇んでその日に初めておろしたらしい。


せっせと水かけにいそしみ、枯れた枝葉を落とし
立ち座りを繰り返しているうちに、縫い目のほつれに勢いが加わり
ダダダ〜〜〜っと足元まで一気にほどけてしまったのだろう。


以前、中国の農村地域で幼い子供たちが
お股の部分が縫われていないズボンをはいていたのを見たことがあるが
そんなレベルのほどけ方ではない。


一応、それなりの値段がしたものらしく、しかも、一度しかはかずに・・・である。
捨てずに洗濯機に放り込んだところまでは、見た。


私が外出先から戻ってきた時、足踏みミシンの音が聞こえてきた。
鼻歌交じりでご機嫌の母が、妙なものを手にしている。
「エコバッグ、作っちゃった〜!」と、ふちにレースまで縫い付けた
ユニークな柄の大きめの買い物バッグが出来上がっていた。


どうやら、ズボンとしてはけなくなったものをリサイクルしたらしい。



後日、近くのスーパーに買い物に出かけた。
レジで会計を待つ時に『レジ袋要りません』のカードをかごに入れ
母はお手製のエコバッグを取り出し、買ったものを詰め始めた。


じゃがいも・人参・たまねぎ
かぼちゃ・大根などなど・・・
「やっぱり布はいいわね〜。まだまだ入るわ〜」
なんて言っていたが、いざ、持ち上げてみたら
中身がバッグの底にひとかたまりになり、ずっしりと折り重なってしまう。
取っ手にしたヒモも、勿論、元ズボンの生地である。


肩に担いだり、抱きかかえたりしながら母が帰ってきたが
「大変だったのよ〜」と流れる汗を拭いている姿を横目に
『はき心地ゆったり のびのびズボン』と書かれたタグを思い出し
私は密かに肩を震わせて、含み笑いをしてしまったのである。