夏の珍客


とんだ珍客を招いてしまった。


お盆前にやらねばならぬ用事をあれこれ済ませ
両手に荷物を抱えて実家の玄関を開けた。
午後の3時過ぎなんてただでさえ暑いのに
台風が近づいているとかで、今日の風はやたら湿っぽい。


伸びてきた髪を結いあげて、大きなバレッタで留めていたが
風にあおられ、いくすじもの髪がほどけ落ちてしまった。
払っても払っても首筋にまとわりつき、汗ではりついてしまう。
あ〜〜〜気持ち悪ぃ。。。


「ただいま〜」もそこそこに、早く手も顔も洗いたくて
ほどけた髪を結い直そうと頭の後ろに手を伸ばしたら〜〜〜〜
こそこそっと、何が乾いたものに触れた。


ん・・・?
一瞬、気のせいだろうと思ったが、こそっと確かに何かが動いた!
「おかーさ〜〜〜〜〜〜〜ん!私の頭に何か付いてる?」と
くるりと頭を回し、母に背中を見せた。
「あらま、頭に蝉が付いてる」と、まるで事もなげに母がこたえた。
せ、蝉ぃ〜〜〜!? 生きてるあの蝉ですかぁ???


とりあえず、モシャモシャと室内で根とつるをのばしている
元:さつまいもの葉の上に蝉を置いてみた。
つまんだ時に「じ!」と一回鳴いたが、あとはだんまりである。


家事の合間に横目で見ると、たまにこそ〜っと動いている。
まるで、蝉の「だるまさんがころんだ」状態だ。
器用にストローの様な口?を芋のつるに突き刺し、樹液モドキを吸っている。
無理に引き離しても…と、今夜はそのままリビングの電気を消した。


どこから付いてきたのか知らないが、結いあげた私の髪にしがみついて
実家にやってきた珍客に、今夜は何だか食卓も和んだ。
「夜中に鳴き声、絶対にあげないでよ〜〜」とこっそり言い聞かせたら
私も、寝よ。