Bon Dance に誘われて


この家に引越しして
もう10年が過ぎた。


様々な事情とご縁により
同じ市内とはいえ
6回も7回も転居してしまった。


地区ごとの「ゴミの日」は
なにげに明確に記憶しているが
郷土愛を覚えるほど
その土地に根付いた生活を
してこなかったのかもなーと
今更ながら思ってしまう。


今夜は全ての用事を終えて早々と帰宅し、溜まっていた家の事務仕事をこなそうと
窓を開けて久しぶりに机の前に座っていた。
昼間の灼熱地獄は勢いがまだまだ衰えていないが
それでも、夜の風はどこか涼しさを感じるようになり
パイナップルミントの香りがする風が、いい感じで室内に入ってくる。


ハーブたちも育ってきたなぁ〜と思いつつ
返信や手続きが必要なメールに、文書を作成していた。ら・・・。
突然7時のニュースと共に、大音量で♪炭坑節 の歌が響いてきた。
何事〜〜〜!? と思い、窓から外をのぞくと
バルコニーにあるオリーブの枝の間から、何やらちょろちょろと灯りが見える。


あん?と思って、サンダルをつっかけ外に出てみると
近所の神社で、盆踊りをやっているのが見えた。
うっわ〜〜〜こんな近所に神社なんてあったんだー!と、改めてビックリである。


一旦音楽は止み、町内会長と盆踊り実行委員会の会長やらの話が始まった。
「お集まりいただいた皆さぁ〜ん、町内会の皆さぁ〜ん、こんばんはぁ〜。
今年は昭和でいうと85年です! 64回目を迎えた今年の盆踊り
しっかり伝統を受け継いでいきましょ〜ね〜」
(昭和85年、って。。。)


スピーカーを通して聞こえてくる音声は、周りに立ち並ぶマンションに反響して
大音量にエコーがかかり、とてもとても作業が手につかなくなった。
窓を全部閉めても、音はお構いなしに入ってくる。


眉間にしわを寄せながら、母に「今夜ってお祭りなの?」と聞いたら
「ん〜そうみたいね〜」と煎餅片手に、TVにかじりつく近さまで椅子を寄せて
バラエティ番組を見ながら笑っている。
パリン!と煎餅を一口かじってから「9時まで終わらないわよ〜」と言う。


ありゃ〜〜〜〜。
正直なところ、私はこの手の音がとっても苦手なのだ。
カラオケとかにも、数えるほどしか行ったことがないし
TV番組もニュースやドラマなどの人の音声はいいのだが
その他は何だか音が耳にうるさく聴こえて
ひとりで家にいる時には、ほとんどTVは点けたことがない。
(このことで夫とはよくTVのリモコンを奪い合って、揉めるのだが)


さて。
1時間は我慢した。♪炭坑節と♪東京音頭はメロディを覚えるほど聞かされ
新曲なのか♪交通安全、私の願いという演歌調の歌まで聞いた。
9時まであと1時間もある〜〜と思ったら、疲れが倍増しそうだったので
考えるのをやめた。
ならば、家でイライラしているより、ご近所探索に出かけてみようかと思い
母に「盆踊り、見に行こう!」と声をかけた。


どこから集まってきているのか、子供たちが物凄く沢山いて
踊り終わると「ご褒美」としてお菓子などを貰っている。


その光景を見て、ふっと「懐かしいなー」と思った。
小学生の頃、団地の子供会で確か同じようなことをしてたっけ。。。
今やもうすっかりその地域も再開発され
住んでいた家は勿論、近所のお菓子屋さんもクリーニング屋さんも
「お父さんたち」が力を合わせて組んでくれた櫓のあった公園も
全てなくなり、高層マンションが立ち並んでいる。


夜の9時、時間ぴったりに盆踊りの音楽が止んだ。
「みなさぁ〜ん、お疲れ様でしたぁ。踊った大人の皆さんにもご褒美がありまぁす。
ティシュを一箱差し上げますので、テントの前に並んで下さぁ〜い」


神社脇の一方通行の道には、踊り終わった子供たちを迎えにきた
自家用車と、荷台に座席をつけた自転車で一杯になった。
私が子供の頃は、家まで友達とお喋りしながら歩いて帰ったものだけど
今は地域の盆踊りでも、皆、親たちが車で送迎する時代になったんだ〜と
不思議な驚きがあった。
第一、小さい頃は9時までなんて私、眠くて起きていられなかったもんなぁ〜。


お菓子を手にした子供たちが「パパぁ〜、ママぁ!」と呼ぶ先には
明らかに私よりも年の若い人たちがいる。
私も「ママぁ〜」ってふざけて母のことを呼んでみたが
「あのサ、最後のほんのちょこっとだけでも踊りの輪に加わっていれば
私たちもティシュ、貰えたかな?」と真剣に言った。


「明日もまた、盆踊りあるよ。来る?」と言われ
・・・明日もあるの〜〜〜〜〜!? とドッキリ!だ。。。
踊れば我が家には「ティシュ二箱」だ。どうしようかなぁ〜〜〜〜。
夫も呼ぶかー。