人生って

夕方、急用が出来て、始発駅から電車に乗った。
退社時間にはまだ少し早かったが、それでもそこそこ車内は混んでいた。



目的地までは10分程度の距離。
駅の数も4つくらいなので、日ごろの運動不足解消のためにも立って行こうと思い
乗降の邪魔にならないよう、車両の隅に立っていた。



発車時間が迫ってきた時、ワイワイと小学校高学年の男の子たちが
揃いの鞄を背負って4,5人群れて電車に乗り込んできた。



よく見れば、その鞄には某大手学習塾のロゴが入っている。
彼らも車両の隅に群れて立ち、電車の揺れにバランスを崩すこともなく
あれこれと何やら楽しそうに話を始めていた。



大人たちはもうじき終業時間だというのに
義務教育を受けている子供たちは、これからまた勉強というシゴトがあるのか〜。
何だかイマドキの子供たちって気の毒だなぁ…なんて思いながら
彼らのことをぼ〜っと眺めていた。



私が子供だった頃は、学校が終わったら家にすっ飛んで帰って
ランドセル置いて・おやつを食べて、ちょちょいと宿題をやっつけて
速攻で遊びに行ったものなのに
学校から帰ってきたらすぐに鞄を持ちかえて電車で塾通い・・・なんて
今の小学生の子供たちって、いつおやつを食べて、いつ宿題して
いつ遊びに行っているんだろうね。。。



そして、聞くともなしに聞こえて来た彼らの会話を聞いて
物凄くビックリしてしまった。



どうも今は「塾」に通っていないと受験対策が十分に出来ないらしい。
しかも、上を目指している子供たちにとっては
小学校での授業もだけど、どこの「塾」でどんな授業を受けて
どこの中学に進学するかが、将来に関わるとっても大事なことらしい。



私には子供がいないので、塾や受験に関しては全く無縁の話であるが
子供は子供なりに早々と競争社会に足を突っ込んでいるんだね。
で、その中のひとりの男の子が話の口火を切った。



「あのさ、塾の先生がこの前言ってたんだけど
俺たちのコースの卒業生で東大に受かった人がいるんだって。
最初は外交官を目指してたらしいんだけど、急に進路変えちゃって
今はどこかのテレビ局でカメラマンをしてるんだって。
なんかそれってビックリだよね。
でも、ちょっとカッコよくね〜?」



その話を聞いていた他の男の子たちは次々とこう言った。



「えぇ? テレビ局のカメラマンって給料いくらだよ。
これからの時代、キャリアを目指して行かないと金、稼げないぜ〜。
将来は親たちの面倒を見なきゃならないし、介護って金、相当かかるぜ」


「バカだなぁ〜オマエ。
親たちの面倒もだけど、結婚したら子供にお金かかるんだぜ〜。
教育費だって今よりかかるかもしれないぞ」


「それに結婚したら家のローンや車のローンだって払わなきゃならないし
やっぱ、不安定な仕事だとまずいだろ。
信用がないと銀行からも融資、受けられないって親が言ってたし。
安定した職業が『ぶなん』だろ。やっぱ、公務員かな〜」


「あとは理系で行けるとこまで行って、医薬系の資格取るのが一番だよな」



・・・ある意味、末恐ろしい現代の子供たちである。
外交官からテレビ局のカメラマンへと進路変更をした「先輩」を
カッコいいと言った男の子は、すっかり現実の話にのまれてしまって
しゅん…としてしまったが、綺麗事を言ってみてもやっぱり現実は競争社会。



彼ら自らの意思で塾通いをしているのかどうかはわからないけれど
一面では確かに「しっかりしている」。
具体的な目標があって生きているというのは、大人でも子供でも
ちゃんと顔や態度にあらわれてくるものなんだな〜なんて感心してしまった。



でもねぇ。。。



話の口火を切った男の子が言った。
「でもさ、でもさ。
今の世の中、大企業が会社再生法を申請したり
大幅なリストラしたりする時代だから、大手なら安心とかも言えないぜ。
むしろ、自分の興味のあることを仕事に出来たらいいと思わないか?
やっぱり、人生なんてわからないものだよ。
計画通りなんて行かないぜ〜、きっと」



・・・思わず、おばさん(←私のコトです) はこころの中で大きく頷きながら
思いっきり彼に拍手をしてしまった。



「人生なんてわからないもの」



あぁ、全くだ。
でもね、だから「生きる」って面白いんだよ、きっと。



目的の駅に着き、私はさっさと降りてしまったが
改札口で彼らと同じロゴの入った鞄を背負っている沢山の小学生たちが
そこここに小さなグループを作って仲良しの友達を待っているのが見えた。



同じ駅にその塾はあった。
友達がライバルになり、また親友になって行く日を
彼らもそう遠くない将来、味わって行くんだろうな、きっと。