HOPE 〜のぞみ〜

この年末年始は、ひたすら父の入院している病院に通い詰めの毎日だった。



医療機関も休みになって、スタッフの体制も休日シフトとなり
「こんな時に…」と思うほど、父の状態がぐずぐずと崩れていき
一時は呼吸まで不安定になり、何とも気を揉み続け〜の期間を過ごした。



仕事始めの日を迎えて、病院も通常診療が始まり心底ほっとしたけれど
またすぐに厄介な3連休。。。
その前に自宅の掃除もしなきゃな〜と、昨日の昼間、数日ぶりに帰宅した。



ふと見れば、リビングの机の上には年末からの郵便物が積んであって
年明けに届いた年賀状も輪ゴムでボン!と一束、綴じてあった。



クレジットカードの明細や、不動産屋さんから届いた卓上カレンダー入りの封筒
近所の教会の「週報」に、新年のご挨拶が記された町内会の会報まであった。



その中に一通、可愛らしい封書があり
差出人を見たら、私の古い友人のひとりの名が記されていた。



封筒を手に取ってみた。
少し厚みのある部分がある。
何かを同封してくれた様だ。
なんだろう?と思って、真っ先に封を開けてみた。



そこには、手紙と一緒にピンクリボンをモチーフにした
可愛らしいシルバーのアクセサリーが入っていた。



わぁ!凄い〜〜〜〜〜。
どうやら、友人手作りの品らしい。
一目で気に入ってしまい、すぐに携帯に付けて毎日持ち歩くことにした。



考えてみれば、彼女からは言葉では言い表わせないほど沢山の気遣いや
本物の真心をいっぱい、いっぱい貰っている。



私が病気になった時、千羽鶴を折って送ってくれたのも彼女だった。
超〜多忙な仕事の合間を縫って、寝る間も惜しんで物凄い勢いで集中して
きっちり千羽、小さな折り紙で鶴を折ってくれる友なんて
世界中探しても、そうそう居ないだろうな〜と思う。



乳がんの術後、脇の下を切ったので、少しの間、腕が攣れてしまい
思うように家事が出来なかった時も、手間をかけずにすぐに食せる食材を
宅配で何度も何度も送ってくれて、あの時も、本当にありがたかった。



こちらが何も言わずとも、さささ〜〜〜っと必要なもの・それ以上のものが
その友人を通して、どんぴしゃり!というタイミングで届く。
不思議だなぁ…と思うけれど、その気配りとセンスは他の誰も真似は出来るまい。



今回も連日老人病棟に出入りしていた…というか、ほぼ入り浸っていたので
会社で仕事をしていた時の疲れとは、全く別の疲れを感じてしまい
帰宅しても 「エート、とりあえず、まずは何をすればいいんだ?」と
気持ちがちょっと重たくなりかけていたところだった。



いただいたシルバーのアクセサリーを手のひらに乗せてみたら
それなりにしっかりした重さを感じた。
そして、リボンの先端をよく見ると、そこには “HOPE”と刻印が刻まれており
それがまるで神様からのメッセージの様に感じ取れた。



介護というものを実際に自分で経験して思ったのだけれど
正直なところ、綺麗事では成り立たないことが多い。
多くの場合、自分の生活や日常を完全に犠牲にして
優先的に時間も労力も費やさねばならないことが連続する。



申請すれば、勿論、法的制度の範囲内において
外部からの支援の手は受けられるけれど
とてもとても1年365日・24時間ともなると、それだけでは足りない足りない。



誰かが要介護の人と同居するか、キーパーソンとなってケアをしていくか
それも1:1ではどうにもならないので、最低でも支援者は3人必要だと聞く。
どうしたって最終的な義務と責任は 「家族」の肩に圧し掛かってくる。



どうにか無事に年末年始は乗り越えたものの
ウチも今年で介護生活24年目に突入だ。
ますます年中無休の日々となり、ここまで!という期限付きのものでもないし
ふとした時に、こころが重たくなる。



やっぱりね。
私も普通〜に仕事を続けていれば、定年まであと15年もあるのよ。
周囲の友人たちが働いているのを見れば、流石にどこか焦りも感じる。
このままでいいのか、どうしたらいいのか、いつまでこの生活が続くのか…と
特に経済のことを思うと深刻な問題に立たされているんだなぁと思うけど
今の生活から逃げることなど、絶対に出来ない。



“HOPE”・・・希望(きぼう)と訳すよりも、私はのぞみと訳したい。
手の届く現実として、どんな時でも絶対に手放さずにいたいもの。



諦めや妥協の先にある絶望には繋がりたくはないからね。
それに、どんな時にだって、必ず喜びはあるんだよ。



悲しみや苦しみ、辛さだけを味わうために23年間も介護に縛られているのではないし
後に同じ痛みを体験する人たちの気持ちを、少しでも分かち合うことが出来たら…
それはそれで今の体験は、後の“HOPE”として生かされていくだろう。



辛い時に得た身近な人からの本物のやさしさは、大きな励ましになるんだね。
友人とはいつ会えるかわからないけれど、今度会ったら心をこめて
「ありがとうー」って言いたいな、と手紙を読みながらしみじみ思った。



友人が綴ってくれた文面も、シルバーのアクセサリーの様に
何だかとっても手応えのあるあたたかさがあった。