よかったね

父が入院してからというもの・・・。
何だかすっかり 「父の部屋」が、物置きの様になってきた。



そういえば、私が結婚して家を出た時も
あっという間に、「普段は使わないけどないと困るもの」たちが
次々と運び込まれ、帰省した時には「どこに寝るのよ…」状態だったっけ。



普段から面倒がらずに、少しずつでも片付けと整理をしていかないと
イザ!という時に、モノを探すのに時間を取られたりして
結構、私はイライラしてしまう。



「あったら便利はなくてもいい!」がモットーの私。
自慢じゃないが、捨てたり手離したりして後悔したものなんてひとつもない。
むしろ、宝の持ち腐れをする方が、よっぽど心が痛む。



なので、使えるもので欲しいものがあったら、差し上げますよ〜!と
いろいろな方に、必要なものたちを貰ってもらった。



一般的なものならまだしも、介護用ベッドや移動用リフトなど
どうしたら良かんべサ…というものは、その筋のプロに任せたが
車椅子だけはまだ新しいので廃棄するには勿体ない。
さりとて、誰か使う人いるのかな…って、あれこれとお伺いを立ててみた。



居た。。。
意外と身近に見つかった。



夫に相談したところ、彼の母親が使ってくれるという。
あら、よかった!



そして、「ボクが運ぶ!」と珍しく夫が積極的な反応を見せたのだ。



彼は今まで一度も車椅子を積極的に扱ったことがない。
折りたたみ方や広げ方さえも知らず
当然、人を乗せての段差の超え方なども未知の世界だ。



そして普段の生活の中で、自力での外出が全く出来なくなった義母ではあるが
いくら車椅子が届いたから…とて、何の知識もなくすぐに乗車して
押したり押されたりでは、介護する側もされる側も不安が一杯だろう。



まさか、車椅子本体や押している夫の背中・乗っている義母の胸に
初心者マークを貼り付けるわけにもいかないし
さりとて、思わぬところで事故が起こったら困る。



当初は、私も一緒に行くものだ…という期待が
夫や義母たちにもあったのだろうけれど
何しろコッチには、日々刻々と状態の変化する父がいるので
片時たりとも目を離すことは出来ぬ。



「ひとりで行って頂戴ね〜」と夫に宣告?してから
とりあえず、駅までは見送るから…と、家から駅までの道において
車椅子の操作の仕方を、一通り簡単にレクチャーした。



確かに単に押して行けば進むのだけど、押すのと乗るのとではやっぱり違う。
歩道で信号待ちをしていても、車椅子に乗っている人の方が車道に近いし
目の前を勢いよく自転車がすり抜けて行ったりする恐怖は
後ろで押している人にとっては目の高さも違うので、わからない。



また、勢いよくエレベーターに乗せられると
乗っている人の足のつま先が壁に「どん!」とぶつかることが多く
これ・・・当てられた方は痛いんだよね。



ちょっとした段差超えとかも静かに操作しないと
乗ってる人が飛び出てしまう危険性あり。。。
これは、車が急ブレーキをかけた状態と同じだからね。



ましてや外歩きは建物の中と違って道が平坦じゃないから
腕の力だけで押していると腰にも来るし
慣れていないと即刻、腕の筋肉痛+腰痛を起こす。



どれどれ・・・いい機会だから〜と、操作の説明をした後で
実際に夫を車椅子に乗せて、出来るだけ沢山の「体験」をしてもらいながら
途中まで車椅子を押して行った。



・・・一応、誤解のないように断わっておくが
私は決して夫に大きな不満があるわけでもなく(ホントか!?:笑)
仕返しをしたくなる様な意地悪もされたことはないけれど(そーかぁ?:笑)
理解は体験を通さずにはなされないので、嫌なことをされなければ
記憶に残すのは難しい。



ましてや、これからはある意味、義母のいのちがかかってくる。
夫には「絶対に足をペタルから降ろすな!」と言ってから、車椅子を押す。



最初に、道路の陥没している穴に片側の車輪を落としてみた。
ガクン!と車椅子が傾き、「わ!」と夫が小さく声を出した。



次に、車をよけるために端っこに寄り、そのまま路肩の傾くままにスリップさせ
ついでに建物入り口にある段差に前輪を思いっきりぶつけてみる。
つんのめりそうになりながら、「う…」とひじ掛けを咄嗟につかんだ。
夫はまだ若いけど、高齢になればつかみ損ねて顔から転倒するだろう。



その後で、ゆっくりと車椅子を後ろ向きにし、後輪から引きずり上げてみた。
「ほらね。段差がある時にはこういう超え方もあるのよ」と。



また、後部のバーを踏み下げて、前輪を持ち上げ
段差を越える方法も教えたが
何も言わず、いきなり車体を持ち上げたので夫は驚いただろう。



必ず、何かをする前には言葉で乗っている人に伝えてね、と言い
乗降時と止まっている時にはちゃんとブレーキをかけることも伝えた。



ちょっとコワイ体験をしつつ、夫は車椅子を彼の実家に運んで行った。
1回だけやり方を教えてもらって、ちょこっと実車体験をして、すぐに実践!だ。



頑張れ〜!と言って夫を送り出したが
電車を3本乗り継いで、特急に乗って、最寄駅から20分歩いて
途中の自転車屋さんでタイヤに空気を一杯入れてもらって運んで行った。



昼過ぎに、一本の電話がかかってきた。
夫からだった。



「あのね、あのね。12時半頃コッチに着いたよ!
それでね、今ね、母親を車椅子に乗っけて駅ビルまできたよ」
夫の声が明るく弾んでいたので、ホッとした。



義母にとっては相当久しぶりの「外出」だったらしい。



夜になって、また夫から電話があった。
「あのね、あのね。母親を連れてあの後、デパートに行ってね。
地下の食料品売り場でいろいろ買い物したよ。
で、ふたりでラーメン食べて帰ってきた〜」



次に夫の母が電話に出た。
「あ〜、もしもし。今日は嬉しかったよ!
自分の目で見て、欲しいものが買えて〜。
息子に車椅子を押してもらってねぇ…」



「よかったですね〜」と、私も嬉しくなった。



子供が成人して結婚し、離れて暮らしていれば
母と息子、ふたりだけの時間・ふたりだけで 「お出かけ」するなんて
滅多に機会はないだろうなぁ〜とも思う。



ましてや夫は3人兄弟の末っ子だ。
可愛さも母親にとっては格別のものがあるのかもしれない。



外気に慣れていない義母ゆえに、少しでも寒くないように…と
私の母も義母のために…と、温かい下着を買ってプレゼントした。
夫ともあれこれと相談し、普段履きとちょっとした外出用の靴をプレゼントした。



もう一度、携帯が鳴り夫が「もしもし〜?」と言う。
これから、最終の特急に乗って家に帰ってくるという。
明日はお休みなのに…と言ったら、「用事もあるしサ」と。



義母も電話に出て
「・・・やっぱりね、息子はつまらんじゃんネェ。
やっぱり娘の方がいいねぇ。
そちらのお母さんが羨ましいサねぇ〜」



あらららららら・・・。



まぁね、私は父のこともあって今の生活が必須だから
母のそばにいるけれど、お互いに持ちつ持たれつだわね。。。



そうそう。夫に 「ところで、お義父さんはどうした?」って聞いたら
「一緒に行かない。留守番してる」って家に居たよ、と言う。
寒いし、ね。。。



久しぶりにひとりになってゆっくりする時間もあったけど
女房と息子が「楽しかったねぇ〜」って帰宅した姿をみて
もしかしたら、ちょびっとだけ、義父は羨ましかったのかもしれない。



「お義母さんのお散歩もいいけど、お義父さんにもちゃんと
缶コーヒー1本でいいから、お土産買うの、忘れないでね」って
夫に伝えるの忘れちゃったよ〜〜〜。



でもま、また行きゃいいか。ね。