人それぞれ・・・


全く・・・。
思い出すたびに腹が立つ。



私の度量が小さいと言われればそれまでなのだが
普段ならともかく、流石に実の親を亡くした直後は
それなりに気持ちもナーバスになっている部分がある様だ。



いつもなら、笑ってやり過ごせることも
どうも今回ばかりはそうはいかない。



先日、とある親戚筋のひとりが 「良かれ」と思って言い放ったであろう言葉に
私は深く傷ついた。
そして、「いかなるものか・・・」と眉間にしわを寄せてしまった。



弔問として訪問してくれたのならば
御霊の前に静かに頭を垂れ、遺族の心を癒し、励ます…ことを目的としてほしい。
同時に、今更言うまでもないのだが
ひとりの大人として、一社会人として最低限度の 「わきまえ」は
言動の中に保って欲しいとつくづく思う。



「その人」は、どうやら母方の親戚にあたる人らしい。
年は50代半ば。
一般的な家庭に育ち、それなりの教育を受け、名の通った大学を卒業して就職。
適齢期には結婚をし子供を二人もうけたが、子供たちもそれぞれに独立したという。



私はさほど面識はないが、家も比較的近いらしく
幾度か訪問し合った関係であるらしい。



それぞれに、いろいろな労苦を通されてはきたのだろうが
本当の意味で人の痛みを知り、その思いを分かち合うというのは
実際に自分がその 「痛み」や 「立場」を体験するしか方法がなく
それ以外、理解出来る手段なんてないと思う。



未婚者に既婚者の苦労はわからないだろうし
子供のいる人たちには、子供が出来ない夫婦の痛みはわからないだろう。
そして、その逆もまた然り・・・だ。



人間の頭の中で理論的に、あるいは思考レベルで
相手の立場をあれこれ考えることは出来ても
それは 「理解」などではなく、立派な「同情」。



この違いって・・・結構、鋭く見抜けるものだし
正直、実体験を伴わない理想論を語られると、物凄く腹が立つ!



一応の大きな役目を終えて、細々とした事務手続きも大方やり遂げ
やれやれ・・・と思っていた矢先に
「その人」から、こんなことをいきなり言われた。



「あのね、いくらお父さんが死んじゃって、お母さんが可哀想〜って思っても
あんたはあれこれ親を手伝わない方がいいよ。
親にはね、寂しいなぁ・・・ちょっと手伝って欲しいな、って思わせないと
ただ子供に甘えてくるだけなんだから。
そうなるとホントにこっちが大変になるだけだから、気をつけな」



・・・だって。



みなさんは、どう思う?



そう言った後、その人はおもむろに懐に手を差し入れ、名刺を差し出してきた。
その人の言葉を聞き、一瞬で怒りの沸点に達してしまった私は
彼の真意が汲み取れず、不可解なことをする彼の態度に
「理解不能」の判断を下した。



・・・単に、自分の地位を自慢したいだけなんだネ。



「今ね、仕事の他に、頼まれちゃって、こんなこともしてるんだよ」と
もう一枚、名刺を私の手に握らせようとした。



最初に出された名刺には、世の中でそれなりに名前の通った企業名が印刷され
企業での肩書きは部長になっていた。
そしてもう一枚は、「世直し」団体のお偉いさん達の集まりのものだった。



理想だけじゃ、世の中も生活も変わるはずがない!と瞬間的に思った。
机上の討論や知識だけで世の中が平和になり、貧困がなくなれば
人間同士の争いなんてなくなるだろう。



でもね。
人間にはなにより、生きた「こころ」がある。
ひとりひとり深いたましいがあるんだよ。



世の中に争い事が絶えないのも、宗教や政治も要因のひとつだろうけれど
それは直接的な原因ではないと思う。
何より、人間の、それぞれの考え方の違い、自己中心的な自分勝手な思いが
その火種になっているのではないかと私は考える。



困った時こそ親を困らせないと、身近にいる子供のありがたさなんて
親は感じないから・・・と彼は言う。



実際、彼は先に母親を亡くしたので、その後、何かと父親の面倒を見てきた。
「親父には本当に苦労させられた。
何かというとすぐに呼び出され、あれこれと頼まれて大変だったよ」と言う。



・・・とはいっても、彼は結婚しているので妻も2人の娘たちもいる。
掃除・洗濯・料理などに関しては心配なんてない。
父親に対するヘルプだって、実際どの程度関わったかなんて、知らない。



彼は男だから、会社での出世のため
世の中においての社会的地位を確立するため・・・
そんな生き方もありかもしれないが、それはそれで彼自身の価値観である。
その妨げとなることを実の父親からちょっとでもされたことが
彼にとっては迷惑に感じるほどの 「怒り」だったのだろう。



その時のストレスを、彼は私にまともにぶつけてきた。
・・・なぜ???



理由は簡単。
私や母の様子が彼の目にちょっと羨ましく映ったから、の様だ。



全くアホラシイ。。。



50も半ばを過ぎた大のオトコが、なんて幼稚なことをやっているんだろう!と思った。
そして、こんな人でも職場では 「部長」の肩書のもと
多くの部下たちにあれこれ指示をしながら頼られているのかと思うと、ぞっとする。



思わず、「お育ちと性格がしのばれますね」と口を突いて出てしまったが
その人とは多分、生涯分かち合うものなどなにもない、と確信した。



まぁ、ルーツは同じでも生まれ育つ環境によって、人の価値観は千差万別。
本当に 「正しい人はひとりもいない」ということを
身をもって感じた出来事だった。